For job hunter 特別企画記事


デザイン事務所に聞く インテリアデザイン業界を志す若手に必要な心構えとは


最近、店舗やインテリアデザインの求人数に対して、応募者が少ないといった声を企業の担当者から聞くことがままある。一方で、デザイン関連の学科に通う学生に話を聞くと、インテリアデザイナーになる、ならないという以前に、自らの進路自体について曖昧で、しかしそれでも焦っているわけではいという印象。これはデザインやその周辺の職種が、近年、分業化やクロスオーバーを繰り返すことで多様化し、まるで選択肢が無限に用意されているかのような感覚を学生が抱いていることも要因の一つかもしれない。

今回、二つのデザイン事務所に店舗やインテリアデザインを志す若手に求める心構えについて話を聞いた。デザイナーや商業空間に携わる仕事に就くかを悩んでいる若手や学生に、本当に自分にできること、やりたいことを明確にするきっかけとしてほしい。





仕事に誇りと厳しさを持って取り組めることが大事 Ability Association アビリティアソシエーション







同社直営のグリルレストラン「TOKYO KITCHEN」


飲食店を中心に商業施設の企画や設計、施工管理のほか、自社での直営店舗などを手掛けるアビリティアソシエーション。代表である朝里勇人氏は、大手企業の飲食店の店舗開発や設計を行う会社を経て独立。先にフリーランスとして活躍していた朝里美和氏と共にアビリティアソシエーションをスタートした。

同社の業務内容について朝里勇人氏は次のように話す。「店舗づくりの業務は、設計や施工管理だけでなく、企画からメニューの考案、ディスプレイを中心としたインテリアデザイン、ウェブサイトやグラフィックのデザインを中心に行っています。そのほかにもコンサルティングや店舗運営にかかわるシステム開発にも携わっています。直営店の事業については、豚肉料理やグリル料理をメインに提供するブラッスリーや、リラックスして楽しめるいわゆる“せんべろ”のような店舗など、幅広い業態を展開しています」

設計業務は、プロジェクトの内容や規模に応じて社内のデザイナーだけでなく外部ブレーンが加わりながらチームを編成し進められる。この設計業務の拡大のため、現在、新たにデザイナーを募集しているという。「弊社のデザインは、直営店を運営しているノウハウや、これまで飲食店に関するさまざまな業務を担当した経験を活かし、オペレーションを事細かに理解した上で機能性と収益性のバランスがとれた店舗設計ができる点が強みです」

それだけ専門的な知識に裏付けされた店づくりを行うのであれば、求める人材も限られそうではあるが、成熟したデザイナーよりも、これから成長をしていく若手に期待しているという。

 





同じく直営で赤豚の料理などを提供するブラッスリー 「TOKYO CUISINE」


「飲食店設計の仕事には多くの経験が必要ではありますが、弊社では、人と関わることに前向きなことや、お店が好きという気持ちがあることがとても大事だと考えています。クライアントと打ち合わせをして意向を聞き出すこと、コンセプトと自分たちのプランをすり合わせていくこと、予算やスケジュールを調整しながら施工の現場とやり取りをすることなど、コミュニケーション能力が問われる場面が多々あります。デザイナーはクライアントのイメージを図面によって通訳していく仕事であり、良い店をつくるために現場の職人さんに自分の言葉で指示や要求をしなければいけません。むしろ経験がなくても、そのやる気さえあれば、技術的な面はいくらでも私達から教えることができます」

最高の結果を出すために積極性を持つこと、自分に厳しく取り組めるかという心構えは、デザイナーだけでなくどんな仕事においても必要なことだろう。

「飲食店など商業施設のデザインの仕事はかっこいいことばかりではありません。しかし、さまざまな立場の人と関わるなかで刺激を受け、苦労しながら自らが携わった店が完成した時の喜びを知れば、さらにのめり込んでいくと思います。デザイナーの求人を探している学生や若者は、会社の安定や大小だけでなく、自分がその企業理念に共感できて、ここでこんなことがやりたい!と思えるような会社に巡り合ってほしいです」



若いうちから自己を表現すること、目標を明確にすることを意識すべき RIC DESIGN リックデザイン





2016年9月にオープンした、路面店舗のフードホール「EBISU FOOD HALL」


東京と大阪に拠点を構え、40年以上にわたって商業施設の設計を行っているリックデザイン。現在は、商業施設の企画や開発、リーシングといったプロジェクトプロデュースをはじめ、アートディレクション、コンサルティングなど商業にかかわるさまざまな業務に携わっている。手掛けているプロジェクトを大きく分けると、大型商業施設の環境設計と、飲食店を中心とする個店の二つのカテゴリーがあり、近年では建築設計を含めて依頼される仕事も増えているという。今回は、同社のマネージングディレクターで設計も担当する岡本克宣氏と、若手デザイナーの立松翔氏に、同社の業務内容やデザイナーの動きについて話を聞いた。

基本的な同社のプロジェクトの進め方は、まず企画の部署がクライアントの要望や与件をまとめてプロジェクトの方向性や実現可能性を、ディレクターとともに練り込んでいく。そして、出来上がったアウトライン、デザインコンセプトをもとにデザイナーが具体的なプランにしていくという流れだ。

プロジェクトの規模によって1人のデザイナーがスタートから一貫して携わる担当物件制、複数のブレーンを含めたプロフェッショナルが4~5名でチームを組んで動く形式に分れる。社内デザイナーは、東京と大阪に各5名が在籍。以前は1人が1物件ずつを担当する形がほとんどであったが、近年、若手の成長を促すことも目的としてチーム制を導入している。

「弊社の特徴の一つとして、各プロジェクトの売り上げを社内で確認できるようにし、自分が社内の売り上げにどのくらい貢献しているのかを分かるようすることで、個々の立ち位置を把握できる仕組みも取り入れています」(岡本氏)

また、社内で海外研修の機会を設けるなど、若手の育成に力を入れているという。

「新人の業務は、プロジェクトチームに加わって図面の修正、模型や資料の作成を行いながら、設計監理といった進行を担当し、すぐに戦力となるよう経験を積んでいくことです」(立松氏)

 





2016年3月、地下鉄御堂筋線新大阪駅にオープンした、 京阪ザストアの駅ナカ商業施設「新なにわ大食堂」


同社の全体で1年のうち約150件程のプロジェクトが進行し、100件程がオープンしている。若手は入社して1年から1年半で、1人で担当できるだけのスキルを身につけ、年間約10件を手掛けることになるという。

また、近年のデザイナー募集に応募してくる人材の印象について、岡本氏は次のように話す。「デザイナーの就業人口が減っているような印象も受けます。海外留学や、事務所に入らずにそのまま独立をしたり、インハウスのインテリアデザイナーになったりと、デザイナーの働き方や選択肢が増えていることで、自分の道を決める時間が昔に比べて遅くなっているのかもしれません。一方で、独立志向よりも安定を求めて就活する人も多く、応募してくるデザイナー志望者たちの考えていることがあまりこちらに伝わって来ないこともしばしば。会社としては、自分の目標が見えている人、例えば『◯年後には独立したい』という人のほうが魅力的に映ります。インテリアデザイナーだからこその価値を提供していくために、若いうちから自分を表現することを強く意識していくべきではないでしょうか」

インテリアデザインというクリエーションに価値を与える職を選ぶ意義、そこに身を置く自分の姿を出来る限り明確にイメージしながら、インテリアデザイナーとしての就活に取り組むことが求められるのだろう。



 


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